新聞コラム3回目「広がるベンチャー型事業承継 永続的経営へ挑戦の場」

2019.7.3沖縄タイムス ニュースナビプラスに掲載

↓こちらは初稿版。実際には文字数オーバーでかなりカットしました。

「広がるベンチャー型事業承継 永続的経営へ挑戦の場」

日本は世界一の長寿企業大国である。国内企業の9割以上はファミリービジネスであるといわれており、その多くは中小企業である。

中小企業庁によると、25年までに70歳を超える全国の中小企業の経営者は約245万人に上るが、約半数で後継者が未定となっている。政府は中小企業の廃業により、25年までに国内総生産が約22兆円失われる恐れがあると試算している。沖縄においても、帝国データバンクの調べでは県内企業の8割は後継者が不在だという。

全国で中小企業の廃業問題が深刻になる中、跡継ぎが新事業を興す「ベンチャー型事業承継」という概念が、各地に広まりつつある。ベンチャー型事業承継とは、若手後継者(アトツギ)が、家業の有形無形の経営資源をベースに新規事業、業態転換、新市場参入など新たな領域に挑戦することで永続的な経営を目指すことをいう。

新しいビジネスモデルを確立し、業績を伸ばしている県内外のアトツギ経営者たちのアントレプレナーシップ(起業家精神)と革新力から学ぶことは非常に多い。

例えば県内では、上間弁当天ぷら店の上間喜壽代表が、家業の経営を再建した経験をもとに会計システムを開発。経営コンサルティング事業を展開し、中小・個人事業者の経営課題を洗い出し、売上拡大や財務改善につなげている。

また、6月に東京で開催された「未来志向のファミリービジネス」フォーラムに登壇した経営者の例を紹介すると、老舗繊維メーカーの三星グループ(岐阜県羽島市)5代目の岩田真吾社長は、自社ブランドの直販や海外展開などアパレルのバリューチェーン統合を進め、クラウドファンディングによる製品開発・販売にも力を入れている。

金属加工会社の由紀精密(神奈川県茅ケ崎市)3代目の大坪正人社長は、薄利多売の自動車向け部品製造から高付加価値な分野へ参入。人工衛星の設計・製造、医療機器の開発から宇宙ゴミの問題解決にも挑戦している。

アトツギ経営者には、先代が積み上げてきた信用や実績という経営資源を活かせるうえに、本業に影響ない範囲で試行錯誤できるメリットがある。事業を継続性という長期的な時間軸で考えられるのもファミリービジネスの特徴だ。

これまで、「同族経営」はともすれば負のイメージが付きまとい、遅れた経営形態と見なされてきたが、事業承継は起業リスクの少ないベンチャービジネスであり、新しい可能性に満ちた挑戦の場でもある。

政府は中小企業の事業承継を後押しするため、事業承継税制の条件緩和を行い、経営者が企業の借金を個人で背負う「個人保証」見直しに向けての指針整備を始めている。沖縄県の事業承継ネットワークは経営者のニーズを掘り起こし、県内金融機関や行政が連携した「金融仲介・地方創生高度化推進会議」は、そのニーズに対応していくという中間報告をまとめた。後継者不足問題は一朝一夕に解決するものではないが、中小企業の活力ある未来が県経済を支えるのは確かなことだ。家業を継ぐべきか、継がざるべきかで悩んでいる若き後継者には、ぜひ新しいチャレンジも人生の選択肢に入れて欲しいと願う。

 

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